2006-08-18
長門有希の観察 プロローグ2
俺はハルヒがロマンを解さない奴だとは思わないが、時々見せる即物的な台詞にはがっかりするね。この分だと本当に幽霊やグレイ型宇宙人に出会う日が来てもさして感激するとは思えないな。
俺の落胆など知らぬまま、指を突っ込んだり伸ばしたりとおもちゃをもてあそんでいたハルヒはようやく本来の用途を思い出したらしく、
「じゃあ、早速つけてみましょう?」
とご無体なことを言った。
「一度伸ばしちまったのは使えない。はまらないんだ」
「へっ、なんで?」
「防空頭巾じゃないんだから、かぶせればいいってもんじゃない」
伸ばしちゃったもんが填るなら、途中で外れちまうだろうが。
「言われてみればそんな気もするわ」
ハルヒは整った顔を少し傾けた。表情だけ見れば哲学的にすら見えるが、首から下は裸だし手にはコンドームだしで間抜けなことおびただしい。慣れてないせいかもしれないが、他人の裸ってやつはなんとなくカッコ悪いもんだな。
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俺の落胆など知らぬまま、指を突っ込んだり伸ばしたりとおもちゃをもてあそんでいたハルヒはようやく本来の用途を思い出したらしく、
「じゃあ、早速つけてみましょう?」
とご無体なことを言った。
「一度伸ばしちまったのは使えない。はまらないんだ」
「へっ、なんで?」
「防空頭巾じゃないんだから、かぶせればいいってもんじゃない」
伸ばしちゃったもんが填るなら、途中で外れちまうだろうが。
「言われてみればそんな気もするわ」
ハルヒは整った顔を少し傾けた。表情だけ見れば哲学的にすら見えるが、首から下は裸だし手にはコンドームだしで間抜けなことおびただしい。慣れてないせいかもしれないが、他人の裸ってやつはなんとなくカッコ悪いもんだな。
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2006-08-12
長門有希の観察 プロローグ1
甘夏小夜子というお節介女がきっかけで俺とハルヒが出来上がったのは半月ほど前の話だが、出来上がったからといって突然太陽が西から昇るようなことはなかった。あるいはハルヒならと一瞬考えたのも事実だが、指摘されてみれば確かに俺たちはもともと朝から晩まで一緒にいたわけで、いまさら何が変わるというほどの感慨をハルヒに起こさせなかったようだ。
長門が言うところの「慎重に吟味中」のハルヒは、俺が見る限り校内ではなんの変化もないように思えたのだが、クラスではあっという間に俺たちに新しいレッテルを貼り付けて、谷口は泣きながら俺を責めつつ走り去っていった。なにか別なものを疑わせるような態度はやめろ。
それでも微妙な変化はあったわけで、例えばうちの母親は突然受験熱に目覚めて妹を塾に通わせることにした。その資金はどこから出るのかというとパートで稼ぎ出すという。従って我が家は平日夜九時までは誰も帰宅しないことになり、代わりにハルヒが部屋に転がり込んでくるという誰かが仕組んだとしか思えない状況になった。
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長門が言うところの「慎重に吟味中」のハルヒは、俺が見る限り校内ではなんの変化もないように思えたのだが、クラスではあっという間に俺たちに新しいレッテルを貼り付けて、谷口は泣きながら俺を責めつつ走り去っていった。なにか別なものを疑わせるような態度はやめろ。
それでも微妙な変化はあったわけで、例えばうちの母親は突然受験熱に目覚めて妹を塾に通わせることにした。その資金はどこから出るのかというとパートで稼ぎ出すという。従って我が家は平日夜九時までは誰も帰宅しないことになり、代わりにハルヒが部屋に転がり込んでくるという誰かが仕組んだとしか思えない状況になった。
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2006-08-09
涼宮ハルヒの喪失 §5
同じ速度で走っている電車同士では、互いの風景は変わりなく見える。ところが一方がずれたとたん、実は互いが驚くような速度で移動していることに気付く──よく体験することだろう。
俺が毎度『機関』御用達のインチキ黒タクシーの窓から見た風景がそうだった。俺が登校してから今に至るわずかな時間ですら、ちょっと気付けば世界がもの凄い速度で無彩色へと脱色しているのに、外に見える人々の誰も色彩の変化に気付いていない。
運転しているのは偽執事新川さんではなくクイーン・オブ・メイド森さん自らだった。運転手を雇うと俺たちが入りきらないからだろう。代わりと言ってはなんだが、前後をそっくりの車が囲んでいる。まるでVIPかヤクザの移動だな。
「恐ろしいものですね」
森さんが前を見たままつぶやいたのは俺の感想についてではなかったようだ。
「世界から彩度が失われていくだけではなく、事物の動きも緩慢() になってきています。私たちの意識はそのままでも、車は思うように動いていない──わかりますか?」
なんと、これは安全運転しているわけではなかったのか。
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俺が毎度『機関』御用達のインチキ黒タクシーの窓から見た風景がそうだった。俺が登校してから今に至るわずかな時間ですら、ちょっと気付けば世界がもの凄い速度で無彩色へと脱色しているのに、外に見える人々の誰も色彩の変化に気付いていない。
運転しているのは偽執事新川さんではなくクイーン・オブ・メイド森さん自らだった。運転手を雇うと俺たちが入りきらないからだろう。代わりと言ってはなんだが、前後をそっくりの車が囲んでいる。まるでVIPかヤクザの移動だな。
「恐ろしいものですね」
森さんが前を見たままつぶやいたのは俺の感想についてではなかったようだ。
「世界から彩度が失われていくだけではなく、事物の動きも緩慢
なんと、これは安全運転しているわけではなかったのか。
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2006-08-07
涼宮ハルヒの喪失 §4
「上層部では、良くも悪くも傾向が安定するという理由であなたを消そうかという話まで真剣に討議されてます。自殺的行為を選ぶような勇気はないでしょうけどね」
目の下にクマを作った古泉が、聞いたこともない声色() で俺に告げた。こいつ寝不足だと切れるタイプだったか。ブレザーのポケットに片手突っ込んでポーズだけは余裕ここうとしてるのがかえって痛々しいぜ。
ハルヒのいない文芸部室はやけに広く感じるが、窓の外は一面の灰色雲に覆われている。おそるべきはハルヒ効果だ。地球規模に広がりつつある閉鎖空間が現実にも浸食し始めている──というのが古泉説だが、俺は全世界的にたまたま曇りの日が揃ったんだとまだ信じてみたいんだがね。
「本当」
そうかい。
「現在世界は急速に色彩を失いつつある。世界が閉鎖空間と同じ彩度にまで落ち込んだ時、世界と閉鎖空間は同一のものになる。情報統合思念体の一次予測では最短で一月、最長で二〇年」
微妙な上にずいぶん幅があるじゃないか。
「統合思念体は有機生命体の予測は苦手。個人的予測では三日以内。手を打たないと状況は今後幾何級数的に悪化する」
長門はすでに目を回している朝比奈さんを扇() ぎながら、容赦ないコメントを繰り出した。心なしか冷たく聞こえるというか「ほらみなさい、心配したとおりになって」というメッセージが込められているようにも感じる。俺もずいぶん分析力が上がったな。
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目の下にクマを作った古泉が、聞いたこともない声色
ハルヒのいない文芸部室はやけに広く感じるが、窓の外は一面の灰色雲に覆われている。おそるべきはハルヒ効果だ。地球規模に広がりつつある閉鎖空間が現実にも浸食し始めている──というのが古泉説だが、俺は全世界的にたまたま曇りの日が揃ったんだとまだ信じてみたいんだがね。
「本当」
そうかい。
「現在世界は急速に色彩を失いつつある。世界が閉鎖空間と同じ彩度にまで落ち込んだ時、世界と閉鎖空間は同一のものになる。情報統合思念体の一次予測では最短で一月、最長で二〇年」
微妙な上にずいぶん幅があるじゃないか。
「統合思念体は有機生命体の予測は苦手。個人的予測では三日以内。手を打たないと状況は今後幾何級数的に悪化する」
長門はすでに目を回している朝比奈さんを扇
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2006-08-05
涼宮ハルヒの喪失 §3
「どう? 大成功って感じ?」
なじみ深い駅前ロータリーの喫茶店ボックス席で、小夜子は手をひらひら振りながらけたたましい笑い声を上げた。中年になったときのおばさん姿が目に浮かぶようだ。こいつは十七でも三十四でも、ついでにいえば六十八でも同じようなキャラを続けそうな気がする。鶴屋さんのようになにかを超越してるというわけじゃないが、できる女特有の背骨がしっかりある感じは共通している。女は生まれたときから女とは聞くが、鶴屋さんも甘夏小夜子も生まれたときからこんな感じだったんじゃないか。
「何がどう成功したっていうんだよ」
「涼宮ハルヒよ。ねえ、告白されたりした?」
なにを訳のわからんことを。
そう、この甘夏小夜子は俺と涼宮ハルヒをくっつけようと画策している女なのだ。見合い話を山ほど持ち込んで煙たがられる親戚の小母さんへの準備をこの歳にして着々と進めてるってわけだ。世の中には未来人やら宇宙人やらいろんな奴がいるのは知っていたが、こういう女がまだ現存しているとは勉強不足にして知らなかったぜ。
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なじみ深い駅前ロータリーの喫茶店ボックス席で、小夜子は手をひらひら振りながらけたたましい笑い声を上げた。中年になったときのおばさん姿が目に浮かぶようだ。こいつは十七でも三十四でも、ついでにいえば六十八でも同じようなキャラを続けそうな気がする。鶴屋さんのようになにかを超越してるというわけじゃないが、できる女特有の背骨がしっかりある感じは共通している。女は生まれたときから女とは聞くが、鶴屋さんも甘夏小夜子も生まれたときからこんな感じだったんじゃないか。
「何がどう成功したっていうんだよ」
「涼宮ハルヒよ。ねえ、告白されたりした?」
なにを訳のわからんことを。
そう、この甘夏小夜子は俺と涼宮ハルヒをくっつけようと画策している女なのだ。見合い話を山ほど持ち込んで煙たがられる親戚の小母さんへの準備をこの歳にして着々と進めてるってわけだ。世の中には未来人やら宇宙人やらいろんな奴がいるのは知っていたが、こういう女がまだ現存しているとは勉強不足にして知らなかったぜ。
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