めにまね
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長門有希の観察 §27(HP編8)

「なんか綺麗すぎて落ち着かないわ」
 俺の気持ちを寄り添ったままのハルヒが代弁した。白熱灯色の間接照明がむらなく配光された室内は塵一つなく掃除されていて、清潔というよりはどこか病院めいた印象を受ける。ハルヒの不安も諾なるかだ。
「ネットで見たときは良さそうだったんだけど……」
 確かに部室のノートパソコンに出せる程度の写真じゃ何もかも解るってわけにはいかない。ましてや初心者の俺たちには現物との差を埋めるだけのものがない。無駄な知識だけなら悪魔の辞典が書けそうなほど持ってるハルヒといえど、女にありがちな耳年増ってタイプじゃないからな。今回は知識と体験の間に流れる誤差という川は無理に渡らずに、橋の建築を今後の課題として棚上げしとくべきポイントなんだろう。
「まあ、するためだけの部屋だからな、やっぱり違和感はあるな」
 俺は自分を励ますように努めてもっともらしい台詞を言ってみた。
「こんなんならいつもの部屋の方がいいわね。臭くてもあんたの匂いがするし、狭くて落ち着くし」
 天使の容姿に似合わぬ語彙しか持たない女は失礼千万なことを口にしていたが、こういう時でなければすかさずゲーム機に飛びついてモニターを立ち上げつつ、口にポテチの一つも咥えて左手だけでカラオケに三曲はリクエストを放り込んでいるはずだ。
 それが俺の腕を捕らえたまま半歩も離れようとしないのは、昼間の余韻ではなく、いつもは怪電波を受信してる見えないアンテナで不自然さを検知していたからだろう。
「まあ、これも経験だ」
 俺は啖呵を切るように声を上げ、右手奥に阿保らしいほどの存在感を見せつけているベッドに歩み寄った。試しに腰掛けてみるとサテンのリネンは下ろしたてを通り越してさっき作りました的なほど真新しかったが、そういう一つ一つが微妙な違和感を生んでいるのだろうと思い至った。新築の匂いっていうよりセットみたいだもんな、これじゃあ。
「まあ汚いよりは綺麗な方がマシだろう」
「それはそうだけど」
 いつも俺の襟首を掴んで引きずって歩く女が、俺の腕をちょこんと掴んだまま後について横座りしているというのもなかなかお目にかかれない光景なのだが、俺もそのサプライズイベントを楽しむ余裕がない。